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心理学ワールド 78号 小特集 自己開示のある日常 川浦 康至(東京経済大学 名誉教授) | 日本心理学会

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Academic year: 2021

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23 小特集 私の秘密 点」領域は,自分だけが知らない 自分の秘密であり,このほうが本 人には重要かもしれない。三つめ は消費される秘密。社会学者の藤 竹暁が2004年に著した『都市は 他人の秘密を消費する』を引き合 いに,現代社会の病理をとりあげ た。彼は,都市社会では人間同士 の関係は希薄化し,「他人に〈か すかな嫌悪〉を覚えながら生活し ている。それはまた,他人の不幸 への〈ひそかな喜び〉を生み出 す」と言う。いまや,「インター ネットは他人の秘密を消費する」 と言うべきか。四つめではプライ バシーに焦点を当てた。身体化さ れた個人情報保護法が個人「的」 情報のやりとりを困難にし,人び とがつながりにくくなっている可 能性を指摘した。公開しないこと も秘密の一種であり,秘密に占め るプライバシーの比重が高まって いる。  秘密の日記から始めた原稿もあ る。例として,徳富蘆花の日記や 石川啄木のローマ字日記を紹介し た。彼らの日記を読んでいるうち に気分が沈み,同時に,原稿も沈 没してしまった。こ れが五つめである。 六つめになると,も はや原稿の体をなし ていない。ジョン・ ケ ー ジ の「4分33 秒 」 な ら ぬ「3400 字」に着想が至った。3400字は 原稿の規定量。私に当てられた ページを白紙にし,読者はそれを 前に自分の秘密に思いをはせると いう趣向だ。けっきょく,どれも しっくり来ないまま,ボツ累累と なった。筆者としては,これらを 秘密の多面性ととらえていただけ れば,ありがたい。どうだろう。 秘密は秘密でいられない  ちょうど20年前の1997年8月。 仲間と一緒にブロガー(ブログ作 者)調査を行った。正確には,こ のころ日本ではまだブログサービ スが始まっていないので,ウェブ 日記あるいはオンライン日記の 作者が調査対象者である。この 研究結果は2編の論文(Japanese Psychological Researchと『 社 会 心理学研究』)にまとめ,それら の集大成として,『ウェブログの 心理学』を出版した。  インターネットという誰もが見 られる場に,日記と呼ぶしかない ような個人的,私的なことがらが 書かれる。これはいったいどうい うことなのだろう。ウェブ日記は その1年前からネット世界のブー 秘密をつまむ  弱った。筆が進まない。執筆方 針が定まらない。今回の依頼をも らって書いた原稿は数種類にのぼ る。ずるずる,ここまで来てし まった。いま書いている,この文 章が最終稿である。  ここに至るまでの原稿の冒頭を 紹介しよう。  一つめは辞書の定義から入っ た。日本語の「秘密」と英語の 「secret」 は 対 応 し て い る の か。 英 英 辞 典 を 見 る と,secretに は 秘密と内緒の二つの意味がある。 Googleで 画 像 検 索 し た 結 果 も, これを再確認するものだった。前 者ではマル秘やTOP SECRETと いったスタンプ類が,後者では人 差し指を唇の前に立てるしぐさ や,耳元でささやく写真が上位 にきていた。両者にはもちろん 共通点もある。それは「人」だ。 「秘密」には,隠して人に知らせ ないこと,またはその内容,と あり,secretには「known about by only a few people and kept hidden from others」とある。も し,この世に一人しかいなければ 秘密は存在しない。  二つめはジョハリの窓。まず 「本人が知っている自己」と「他 者が知らない自己」の領域が「秘 密」と呼ばれることにふれた。 「本人が知らない自己」と「他者 が知っている自己」からなる「盲

自己開示のある日常

東京経済大学 名誉教授

川浦康至

(かわうら やすゆき) Profile─川浦康至 1951年,長野市生まれ。東京都立大学人文科学研究科博士課程修了(心理学専攻)。 横浜市立大学教授,東京経済大学コミュニケーション学部教授を歴任。著書は『日 記とはなにか』(共訳,誠信書房),『ウェブログの心理学』(共著,NTT出版)など。 表 1 日記の 4 タイプ(山下ら, 2005を一部修正) 内容 志向 事実 instrumental 心情 emotional 自己志向 personal 備忘録 memorandum 日記 diary 関係志向 social 日誌 log 公開日記 journal

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の研究者,コとクオ(Ko & Kuo, 2009)は,ブログの継続が主観的 幸福に及ぼす影響を検討した。ブ ログを書く大学生596名の回答を 分析した結果が図1である。ブロ グでの自己開示の深さは,認知さ れる社会関係資本のレベルを高 め,高レベルの社会関係資本は主 観的幸福を高める。ブログを書く ことが日常生活に組み込まれる と,現実の人間関係が広がり,他 者との関係構築や感情表出が進 み,その結果,主観的幸福が高ま ると彼らは結論する。  秘密から少し遠ざかってしまっ た。秘密をそのままにしておくの がつらいときは,ブログも含め, 少し自己開示してみたらどうだろ う。ブログで他者の秘密を読んで みたらどうだろう。自分と似た人 が見つかるはずだ。 文 献

Ko, H. & Kuo, F.(2009) Can blogging enhance subjective well-being through self-disclosure. Cyberpsychology and Behavior, 12, 75-79. Pennebaker, J. W.(1997)Opening up. Guilford.[ 余 語 真 夫( 監 訳 ) (2000)『オープニングアップ』北 大路書房] 山下清美・川浦康至・川上善郎・三 浦麻子(2005)『ウェブログの心 理学』NTT 出版 ムだった。参加観察と言えばい いのだろうか。私も真似をした くなり,その年の2月,日記もど きを自分のホームページで始め た。ウェブ日記をつけている人は 身近にいなく,恐るおそるの出だ しだった。他の人は,どんな気持 ちで,どんな日記を書いているの だろう。ウェブ日記はふつうの日 記とどう違うのか。紙の日記にあ るような秘密や内緒ごとも書かれ るのだろうか。個人的にも知りた かった。  当時の日本のインターネット 個人普及率は9.2パーセント。ロ ジャースの『普及学入門』によ れば,革新的採用者(イノベー ター)は2.5パーセント,初期少 数採用者は13.5パーセントであ る。9.2パーセントの分母は全人 口なので,実質的には初期少数採 用者までの層の人たちの世界だっ た。インターネットは研究者や技 術者から利用が進んだので,ウェ ブ日記の書き手も大半は,そうし た人たちだろう。  調査に先立って,私たちは日 記の分類を試みた。それが表1で ある。「書き手の志向」と「日記 の内容」を組み合わせ,4タイプ が構成された。ウェブは基本的 に,公開を前提としたシステムで ある。実際のウェブ日記も公開日 記が大半にちがいない。そう予測 していた。ところが,その見込み ははずれた。回答を整理した結果 は,どのタイプもほぼ同数だった のである。タイプで見るかぎり, ウェブ日記も日記と変わらない。 ウェブ日記にも秘密や内緒ごとが 書かれる可能性はある。  秘密とは相対的,文脈依存的で ある。当時,秘密ではないと思っ て書いたことでも,あとから秘密 にしておけばよかったと思うこと もあろう。つまり書かれたことの 中に秘密が存在する可 能性はあるし,逆もあ りうる。そもそも秘密 には他者がかかわって い る。 だ か ら, 他 人 が,それを秘密と思わ ず,ツイッターに書い てしまうかもしれな い。本人が書いている ことの中に,他者から すると,その人の秘密 に思えるようなことがらもあった りする。自分だけで秘密を管理す るのは無理な話である。何を秘密 とみなすかは,そのつど本人が判 断するしかない。だが,その評価 は絶対的なものではない。 ウェブ日記からブログへ  誰にも見せないと決めた日記で も,書かれる以上,読者はいる。 未来の自分である。未来の自分は いまの自分とは別人物である。読 まれる,読まれない,の差は,他 者が読むか,未来の自分が読む か,といった問題にすぎない。そ う考えると,日記はつねに読まれ る存在である。  ふつうの日記とウェブ日記(ブ ログ)のちがいは,きょう書いた こと,いま書いたことが,きょう, いま読まれる点である。ウェブ日 記を書く行為には,フィードバッ クが得られることで,自己開示と 同様の効果が生まれる。ただでさ え,筆記による自己開示は,話す だけの場合よりも効果は高い。た とえば自分の感情を書いてみる。 それだけで心身ともに健康にな る,とペネベーカー(Pennebaker, 1997)は言う。人には書かないと わからないことがある。ウェブ日 記では,その筆記効果に,フィー ドバック効果が加わり,それが日 常になる。  ブログでの自己開示過程を検討 した研究を一つ紹介しよう。台湾 図 1 ブログでの自己開示と主観的幸福の構造 モデル(Ko & Kuo, 2009) ***p < .001

社会関係資本 社会的融和 ( 2=.17) 社会的結束 ( 2=.21) 主観的幸福 ( 2=.34) 自己開示 .41*** .45*** .32*** .34*** .25*** .11*** 社会的橋渡し ( 2=.10)

参照

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向井 康夫 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 牧野 渡 : 東北大学大学院 生命科学研究科 助教 占部 城太郎 :

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